第34回アメリカズカップの議定書(プロトコール)が発表された。日本にはそれほど関係ないかなかと思っていたら、「次はどうなるんだろうか」という会話が日本人セーラーの間でしばしば交わされているという。そこで、アメリカズカップの動向に詳しい西村一広さんに解説をお願いした。ただし、かなり複雑な内容なので、数回に分けてのブログ掲載となる。まずは、プロローグとして2007年のおさらいから。(編集部)
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2007年7月3日。スイスのジュネーブ・ヨットクラブ所属のアリンギの勝利で第32回アメリカズカップが終了した。そしてそのわずか2日後、アリンギは素早く第33回アメリカズカップ議定書を発表。しかし、その議定書が発端となって、第33回アメリカズカップは迷走に次ぐ迷走を始めた。
その議定書が発表されるとすぐに、BMWオラクルレーシングをはじめとする複数の挑戦予定チームが、あまりに防衛側有利に作られているその議定書にいっせいに反発した。
それにつづき、挑戦者代表として防衛側から指名されたスペインのヨットクラブが、防衛側が不正に仕立てた、会員さえいない実体のない傀儡(操り人形)ヨットクラブであることが判明した。
この辺りから第33回アメリカズカップは2年半にわたる裁判所での混乱に突入したのだったが、今年2010年2月、裁判所から正式に挑戦者代表として認められた米国サンフランシスコのゴールデンゲイト・ヨットクラブが送り出したBMWオラクルレーシングが、圧勝で第33回アメリカズカップを制したのは、ご存知のとおり。
つまり、前回の第33回アメリカズカップの混迷は、あまりに防衛者側に有利で、アンフェアな議定書から始まった。
だから、前回の挑戦者たちの急先鋒になって防衛側と裁判所で徹底的に闘い、2年以上をかけて海上での一騎打ちに持ち込み、そこで正々堂々とアメリカズカップを勝ち取ったゴールデンゲイト・ヨットクラブが、自らで定めた提出期限までに、どのようにフェアな第34回アメリカズカップ議定書を作り上げてくるのかに、挑戦を目論んでいる関係者たちの関心が集まっていた。
アメリカズカップの議定書を作る作業は防衛者が主導権を持っているものの、挑戦者代表との合同で進め、2者連名での書類として完成する。
今回の挑戦者代表に選ばれたのはイタリアのクルブ・ノティーコ・ディ・ローマ(ローマ・ヨットクラブ)と、そのクラブが送り出す挑戦チーム、マスカルツォーネ・ラティーノ。マスカルカルツォーネ・ラティーノのオーナーであり代表を務めるのはヴィンチェント・オノラート。
イタリア海運界の実業家であるオノラートは、第31回と第32回アメリカズカップにオーナー/プレイヤーとして挑戦してきただけでなく、ヘルムスマンとしてワンデザイン・クラスのマム30とファー40の世界選手権で複数回優勝している現役トップセーラーでもある。最近はメルジェス32に乗ってイタリア国内レースでのデビュー戦を飾っている。
ファー40で世界チャンピオンになったときはタクティシャンにラッセル・クーツを迎えているし、クーツが自身で艇を開発して世界ツアーもプロモートしているラッセル・クーツ44クラス艇の、ごく初期からのオーナーでもある。
2人の親密さはセーリング界ではよく知られている。
アメリカズカップを離れても親密な関係を保っている防衛チームの最高経営責任者クーツと、挑戦者代表チームのオーナーであるオノラートが共同でまとめた議定書だから、作成作業は順調に進んだに違いない。
だが、そういう2人が中心になって作った議定書だからこそ、第34回アメリカズカップに挑戦することを計画しているチームにとっては、その2チームにだけ有利な内容がどこかに隠されていないか、入念にチェックする必要があるのだ。
その注目の第34回アメリカズカップ議定書が、9月13日、バレンシアのBMWオラクルレーシングのコンパウンドで発表された。(つづく。解説/西村一広)
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この連載は、この後、下記の内容で掲載いたします。
1 第34回アメリカズカップ議定書の基本理念
2 第34回アメリカズカップの制式艇 AC72
3 2013年の第34回アメリカズカップ本戦に至るまでのレースフォーマット
4 第34回アメリカズカップへのエントリーの要件
5 第34回アメリカズカップの新しい試み ユースアメリカスカップとは
6 第34回アメリカズカップの開催場所はどこに?
7 第34回アメリカズカップエントリーが予想されるチームの横顔
8 第34回アメリカズカップ、日本から挑戦の可能性は
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