白石康次郎さん(海洋冒険家)と羽生善治さん(棋士)の対談を編んだ『勝負師と冒険家/常識にとらわれない「問題解決」のヒント』です。
白石さんに関してはJSAFメンバーなら誰でもご存知。2007年の5OCEANS(ファイブオーシャンズ、単独世界一周ヨットレース)で2位になった様子は、J-SAILINGでもレポートしました。かたや、羽生さんは現在、名人、王座、棋聖、王将の四冠であり、通算タイトル獲得数は歴代2位という棋界の大御所。
対談を通して、羽生さんは「野生の勘を持つ」と白石さんを評し、白石さんは羽生さんを「頭脳のアスリート」と言います。そうした2人がこれまでの人生のハードルをいかに乗り越えてきたのかを、かたや冷静にかたや情熱的に語ったのが本書です。
白石さんが5OCEANSの様子をこれまでにない側面から語る部分はセーラーとして興味津々。いつもと変わりない康次郎節が至る所で炸裂します。一方、将棋という世界の内側を静かに語る羽生さんの発言はクールですが、その視点には人に対するやさしさが垣間見えます。
まったく畑違いの2人の対談なので素朴な質問が飛び交いますが、お互いにていねいにわかりやすく対応するさまは、優れたプロの姿勢です。第4章「社会に対して価値を生み出せ」では、ややもすると社会から遊離しがちな世界に身を置く2人が、どのような形で社会にコミットしていくかの覚悟が見えてきます。
この本に期待したいのは、羽生さんのファンが本書を手にして、これまでまったく縁のないヨットというものを少しでも理解してくれることです。そして、逆もまた真なり。JSAFメンバーのみなさんもこの本を読み、将棋という頭脳のスポーツに興味をもたれることになるかも知れません。