アメリカズカップ・スペシャル・レポート5

2月10日 バレンシア

今日で2月も中旬に入った。

2月1日は、まだ伝統航海カヌーのホクレアに乗ってハワイ沖を航海していたが、なんだかそれが、ずいぶん昔のことだったように思える。

今日は、防衛者、アリンギのドックアウト(出艇)風景を見に行く予定。

昨日の夕方、レースコミッティーは、

「本日、午前11時54分以前に予告信号が発せられることはない」と発表した。

少なくとも午前中は風が強過ぎて、レースができない公算が高く、レース艇が無駄に海上で過ごす時間を増やさないため、との理由だ。ウイングマストを立てている〈USA〉にとっては、とくにありがたいコミッティー判断だろう。

風が予報よりも長く続いて、午後も強く吹き続けるようなら、本日のレースが再び延期されることも有り得ることになる。

〈アリンギ5〉は、昨日のレイデイを利用して、長くテストしてきた直線の保守的なストレートな形状のダガーボードを外し、進水当初に装備していたS字型のものに変えた。

S字型のダガーボードは、風下側の船体を揚力で上方向に持ち上げてよりパワフルなセーリングを可能にする。その替わり、微風のクローズホールドでのリーウエイは、直線のダガーボードに比べると増える。微風のクルーズホールドでの性能よりも、より強い風でのリーチング性能を求める、ということなのだろうか?

つまり、今日、2月10日のレースが強風になる(天気予報では、そのように言われている)と確信したのだろうか? おそらく、自分たちが一方的に設定したレース・コンディション(海面上60メートルの高さでの風速が15ノット未満、波高1メートル未満)では、直線のダガーボードのほうが優れているのだろう。しかし、それ以上の風速、波高のコンディションでレースをやらなければならないとすれば、S字型ダガーボードのほうがいいかも、ということなのだろうか?

朝の出艇時に、このことについて話をしてくれそうなアリンギの誰か(トム・シュネッケンバーグか、グラント・シマーかな?)に会ったら、まわりの空気を読んだ上で、素早く聞いてみよう。

〈アリンギ5〉がS字型ダガーボードをテストしていたのは、進水後比較的短期間で、それ以降はずっと直線形のダガーボードでセーリング・テストを続けていた。S字型ダガーボードの機能(ダガーボードの上げ下げのシステムは複雑で、しかもセーリング中ここには非常に高いロードが掛かる)の信頼性や、セーリングデータは充分にあるのだろうか?

〈アリンギ5〉のサイズのヨットにとってダガーボードの取替えは、大型クレーンを使っての大仕事になり、出艇直前の短い時間でできることではない。

「レースでテストをするな!」という教えは、オプティミスト・ディンギーでレースをする少年少女たちでも知っている、ヨットレースにおけるゴールデン・ルールだと思っていたのだが……

では、続報は海から上がってきてから…(つづく。レポート/西村一広 http://www.compass-course.com

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