2013年開催予定
第34回アメリカズカップについて(その2)

 

第34回アメリカズカップ議定書は9月13日に発表された。右はラッセル・クーツ photo by Gilles Martin-Raget

 

(1)第34回アメリカズカップ議定書の基本理念

発表された第34回アメリカズカップの議定書の中で、アメリカズカップ関係者やファンの間でもっとも注目を集めたのは、どんな艇種が採用されたのかだろう。

挑戦を目論んでいるチームにとっては、次回のマッチで採用される艇がモノハルかマルチハルかによって、艇の研究・開発やトレーニング・プログラムの最初のアプローチがまったく異なってくるからだ。
もちろん、チームに雇い入れるデザイナーやビルダー、セーラーの選択にも、大きく影響する。

第34回アメリカズカップで採用されることになったのは、全長72フィートのウイングセール付きのカタマランである。
このAC72と呼ばれるクラスの詳細については、項を改めて詳しく説明することにする。

艇種のほかに今回の議定書で注目されるのは、レースを運営するのが、挑戦者サイドと防衛者サイドから完全に独立した組織であるアメリカズカップ・レース・マネージメント(ACRM)になるということ。
そして、2011年から本戦までのあいだ毎年開催されるアメリカズカップワールドシリーズという、これまでのアメリカズカップでは見られなかったまったく新しいレースフォーマットが登場した、という2点だろう(最終的な挑戦者決定戦と防衛者決定戦のレースフォーマットについては、後日発表される)。

これまでのアメリカズカップの歴史の中で「必須条件」だとも考えられてきたモノハル艇に決別してマルチハルを採用するという思い切った決定に加えて、上記の2つこそが、160年近い歴史を持つアメリカズカップで防衛者たちが作ってきたこれまでの議定書と一線を画すものであり、未来のアメリカズカップの方向性を模索した結果の「理念」を表わしていると思う。

さて、前回の第33回アメリカズカップの防衛者だったスイスのアリンギは、レースのジュリーを自分たちで任命しただけでなく、レース運営自体をも自チームに有利なようにコントロールしようとしたことはよく知られた事実だ。

2010年2月14日のバレンシアでの第33回アメリカズカップ第2レースでのこと。

長い風待ちの後にやっと安定した弱い風の中、レースディレクターのハロルド・ベネットがスタートの準備を始めるべく運営チームに指示を与え始めたところ、その運営チームに配されていたアリンギのメンバーが、自チーム艇不利のコンディションを嫌って巧妙なサボタージュをし、レース実施の阻止を図った。

その、防衛者サイドの卑怯な振る舞いを何とかいなし、辛くも制限時間内にレースを始めることができたベネットは、その事実を国際セーリング連盟に報告した。

そのアリンギの振る舞いは、スポーツマンシップにもとる行為として疑わしい案件として、今も国際セーリング連盟預かりになったままでいる。

また、1983年にアメリカズカップがオーストラリアに奪われるまでのニューポートでも、防衛者側の特権を振りかざしたレース運営やルール解釈がなされたこともあったらしい。

アメリカズカップが未来に向けて、広く一般のスポーツファンに受け入れられる、よりメジャーなスポーツとして発展していくために、このような悪しき慣習が存在することは望ましくないというのが、かねてからラッセル・クーツが公けにしてきた見解だったから、独立したレース運営組織であるACRMを編成するという今回の議定書の内容そのものは、いわば想定内のことではあった。

しかし、今回の議定書では、ACRMという防衛者からも挑戦者からも独立した組織に与えられている権限が、レースを運営することだけにとどまらない、ということが明らかになった。(つづく。レポート/西村一広)

 

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