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コラム「海のファッションにはワケがある」

2011年3月11日 金曜日

 

今回はウール(羊毛)の話です。

セーラー御用達のアイテムに「ワッチキャップ」があります。「ワッチキャップ」とはウールで編まれたニット帽のことで、街中でもよく見かけます。
元は海軍士官が船上で「見張り」をする時に被っていた帽子なので「ワッチ」ではなく「ウォッチ」と発音するのが正しいと思います。

このワッチキャップだけでなく、セーター、コートなどウールを原材料とする衣服は航海の必需品として、長く愛用されてきました。ウールは保温性に優れているのはもちろんですが、他にも長い航海に役立つ長所を持っています。

ウールの最大の特徴は高い吸水性で、多量の湿気を吸収して貯めておけます。また、ウールには 水分を吸着すると発熱し温度が上がる「湿潤熱(しつじゅんねつ)」と呼ばれる特性があります。

我々が湿ったセーターを着ていても、冷たさを感じにくいのはこの発熱効果によるもので、動物の体毛が進化した結果です。
保水性が高いので乾きにくい反面、蒸発による体熱を奪うことなく、長い時間に渡って発熱効果を保ちます。湿気で発熱するウールは 低温で多湿な船内で、身体を守る重要な作業服だったと思われます。
ちなみに、最近の発熱するアンダーウエアーはウールの発熱機能を人工的に再現した商品と言えるでしょう。

次に、ウールには動物油脂による高い撥水力があり、汚れや菌を防御し、船内の細菌感染を防ぐ役割を果たしていました。
また、熱に強く、引火しても燃え広がらないことも特徴ですから、揺れる船内で火を扱う時には防炎材としても活用されました。このようにウールが持つ天然の力には 保温性以外にも多くの長所があります。

ウールコートやセーターを着ていると、少しだけ心が穏やかになる気がします。
私にとって、天然繊維は物理的な効果だけでなく精神的な効果もあるようで、それはヨットに乗っている時の感情にも似ています。地球環境が叫ばれる中、天然繊維の力を見直すことで、衣服からも環境問題を考えて行ければ思います。

(天然繊維 ⇒人工的に作られた繊維以外の総称。植物や動物などを原材料とする繊維)