第34回アメリカズカップの議定書(プロトコール)が発表された。アメリカズカップの動向に詳しい西村一広さんに解説をお願いした。数回に分けてのブログ掲載となる。(編集部)
(1)第34回アメリカズカップ議定書の基本理念(その2)
アメリカズカップ艇のメインセールのトップに掲げられたロゴマークや、その他アメリカズカップに関するすべての知的財産権と版権は、これまではアメリカズカップ・プロパティズ・インク(ACPI)という法人が保持し、その経営権は1986年以降、防衛者から防衛者へと引き継がれてきた。
第33回アメリカズカップの防衛者だったスイスのアリンギとそのヨットクラブは、今年2月の巨大なマルチハル艇による一騎打ちで破れた後1カ月が経っても、新しい防衛者であるゴールデンゲイト・ヨットクラブ(GGYC)とBMWオラクルレーシングにその権利を譲渡しなかった。
GGYC側はアリンギがその手続きを進めるよう裁判所に訴え、その訴えが認められて、3月26日、アメリカズカップに関係するすべての知的財団権と版権を持つACPIの経営権は、現防衛者のGGYC側に委譲された。
その際、GGYC側は、その交換条件としてスイス側から要求されていた『第33回アメリカズカップでスイスが使ったセールは自国で作ったものではないため、贈与証書に違反している、という案件を含む3件の訴訟を取り下げること』に同意した。
さて、これまでの防衛者は、ACPIの経営権を持つことでアメリカズカップ関係の知財権を独り占めしてきたのだが、今回の議定書では、それらアメリカズカップにまつわる一切の知財所有権は、アメリカズカップ・レース・マネジメント(ACRM)がすべて引き継いで所有・管理することになり、ACPIという法人は存在しないものになっている。そして、第34回アメリカズカップによってそれらの版権使用料やレース開催で得た利益は、ACRMと参加した全チームとで分配する(平等分配ではなく、成績に応じて)ことも記されている。
まさに、「挑戦者側にもフェアなアメリカズカップを」と主張し続けてきたラッセル・クーツの言葉どおりの理念が見える部分である。(この項つづく)
番外・第34回アメリカズカップ最新情報
もう最新情報とは言えなくなってしまったが、10月1日、第33回アメリカズカップ挑戦を目論んで結成されたイギリスのレーシング・チーム、チーム・オリジンのオーナー、キース・ミルズ氏は「第34回アメリカズカップ挑戦を断念する」と発表した。その理由とは?