(1)第34回アメリカズカップ議定書の基本理念
発表された第34回アメリカズカップの議定書の中で、アメリカズカップ関係者やファンの間でもっとも注目を集めたのは、どんな艇種が採用されたのかだろう。
挑戦を目論んでいるチームにとっては、次回のマッチで採用される艇がモノハルかマルチハルかによって、艇の研究・開発やトレーニング・プログラムの最初のアプローチがまったく異なってくるからだ。
もちろん、チームに雇い入れるデザイナーやビルダー、セーラーの選択にも、大きく影響する。
第34回アメリカズカップで採用されることになったのは、全長72フィートのウイングセール付きのカタマランである。
このAC72と呼ばれるクラスの詳細については、項を改めて詳しく説明することにする。
艇種のほかに今回の議定書で注目されるのは、レースを運営するのが、挑戦者サイドと防衛者サイドから完全に独立した組織であるアメリカズカップ・レース・マネージメント(ACRM)になるということ。
そして、2011年から本戦までのあいだ毎年開催されるアメリカズカップワールドシリーズという、これまでのアメリカズカップでは見られなかったまったく新しいレースフォーマットが登場した、という2点だろう(最終的な挑戦者決定戦と防衛者決定戦のレースフォーマットについては、後日発表される)。
これまでのアメリカズカップの歴史の中で「必須条件」だとも考えられてきたモノハル艇に決別してマルチハルを採用するという思い切った決定に加えて、上記の2つこそが、160年近い歴史を持つアメリカズカップで防衛者たちが作ってきたこれまでの議定書と一線を画すものであり、未来のアメリカズカップの方向性を模索した結果の「理念」を表わしていると思う。
さて、前回の第33回アメリカズカップの防衛者だったスイスのアリンギは、レースのジュリーを自分たちで任命しただけでなく、レース運営自体をも自チームに有利なようにコントロールしようとしたことはよく知られた事実だ。
2010年2月14日のバレンシアでの第33回アメリカズカップ第2レースでのこと。