‘アメリカズカップ’ カテゴリーのアーカイブ

2013年開催予定
第34回アメリカズカップについて(その3)

2010年10月7日 木曜日

アメリカズカップの行方は…… photo by 34th America's Cup

第34回アメリカズカップの議定書(プロトコール)が発表された。アメリカズカップの動向に詳しい西村一広さんに解説をお願いした。数回に分けてのブログ掲載となる。(編集部)

(1)第34回アメリカズカップ議定書の基本理念(その2)

アメリカズカップ艇のメインセールのトップに掲げられたロゴマークや、その他アメリカズカップに関するすべての知的財産権と版権は、これまではアメリカズカップ・プロパティズ・インク(ACPI)という法人が保持し、その経営権は1986年以降、防衛者から防衛者へと引き継がれてきた。

第33回アメリカズカップの防衛者だったスイスのアリンギとそのヨットクラブは、今年2月の巨大なマルチハル艇による一騎打ちで破れた後1カ月が経っても、新しい防衛者であるゴールデンゲイト・ヨットクラブ(GGYC)とBMWオラクルレーシングにその権利を譲渡しなかった。

GGYC側はアリンギがその手続きを進めるよう裁判所に訴え、その訴えが認められて、3月26日、アメリカズカップに関係するすべての知的財団権と版権を持つACPIの経営権は、現防衛者のGGYC側に委譲された。

その際、GGYC側は、その交換条件としてスイス側から要求されていた『第33回アメリカズカップでスイスが使ったセールは自国で作ったものではないため、贈与証書に違反している、という案件を含む3件の訴訟を取り下げること』に同意した。

さて、これまでの防衛者は、ACPIの経営権を持つことでアメリカズカップ関係の知財権を独り占めしてきたのだが、今回の議定書では、それらアメリカズカップにまつわる一切の知財所有権は、アメリカズカップ・レース・マネジメント(ACRM)がすべて引き継いで所有・管理することになり、ACPIという法人は存在しないものになっている。そして、第34回アメリカズカップによってそれらの版権使用料やレース開催で得た利益は、ACRMと参加した全チームとで分配する(平等分配ではなく、成績に応じて)ことも記されている。

まさに、「挑戦者側にもフェアなアメリカズカップを」と主張し続けてきたラッセル・クーツの言葉どおりの理念が見える部分である。(この項つづく)

番外・第34回アメリカズカップ最新情報

もう最新情報とは言えなくなってしまったが、10月1日、第33回アメリカズカップ挑戦を目論んで結成されたイギリスのレーシング・チーム、チーム・オリジンのオーナー、キース・ミルズ氏は「第34回アメリカズカップ挑戦を断念する」と発表した。その理由とは?

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2013年開催予定
第34回アメリカズカップについて(その2)

2010年9月30日 木曜日

 

第34回アメリカズカップ議定書は9月13日に発表された。右はラッセル・クーツ photo by Gilles Martin-Raget

 

(1)第34回アメリカズカップ議定書の基本理念

発表された第34回アメリカズカップの議定書の中で、アメリカズカップ関係者やファンの間でもっとも注目を集めたのは、どんな艇種が採用されたのかだろう。

挑戦を目論んでいるチームにとっては、次回のマッチで採用される艇がモノハルかマルチハルかによって、艇の研究・開発やトレーニング・プログラムの最初のアプローチがまったく異なってくるからだ。
もちろん、チームに雇い入れるデザイナーやビルダー、セーラーの選択にも、大きく影響する。

第34回アメリカズカップで採用されることになったのは、全長72フィートのウイングセール付きのカタマランである。
このAC72と呼ばれるクラスの詳細については、項を改めて詳しく説明することにする。

艇種のほかに今回の議定書で注目されるのは、レースを運営するのが、挑戦者サイドと防衛者サイドから完全に独立した組織であるアメリカズカップ・レース・マネージメント(ACRM)になるということ。
そして、2011年から本戦までのあいだ毎年開催されるアメリカズカップワールドシリーズという、これまでのアメリカズカップでは見られなかったまったく新しいレースフォーマットが登場した、という2点だろう(最終的な挑戦者決定戦と防衛者決定戦のレースフォーマットについては、後日発表される)。

これまでのアメリカズカップの歴史の中で「必須条件」だとも考えられてきたモノハル艇に決別してマルチハルを採用するという思い切った決定に加えて、上記の2つこそが、160年近い歴史を持つアメリカズカップで防衛者たちが作ってきたこれまでの議定書と一線を画すものであり、未来のアメリカズカップの方向性を模索した結果の「理念」を表わしていると思う。

さて、前回の第33回アメリカズカップの防衛者だったスイスのアリンギは、レースのジュリーを自分たちで任命しただけでなく、レース運営自体をも自チームに有利なようにコントロールしようとしたことはよく知られた事実だ。

2010年2月14日のバレンシアでの第33回アメリカズカップ第2レースでのこと。

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2013年開催予定
第34回アメリカズカップについて

2010年9月29日 水曜日

第34回アメリカズカップの議定書

第34回アメリカズカップの議定書(プロトコール)が発表された。日本にはそれほど関係ないかなかと思っていたら、「次はどうなるんだろうか」という会話が日本人セーラーの間でしばしば交わされているという。そこで、アメリカズカップの動向に詳しい西村一広さんに解説をお願いした。ただし、かなり複雑な内容なので、数回に分けてのブログ掲載となる。まずは、プロローグとして2007年のおさらいから。(編集部)

2007年7月3日。スイスのジュネーブ・ヨットクラブ所属のアリンギの勝利で第32回アメリカズカップが終了した。そしてそのわずか2日後、アリンギは素早く第33回アメリカズカップ議定書を発表。しかし、その議定書が発端となって、第33回アメリカズカップは迷走に次ぐ迷走を始めた。

その議定書が発表されるとすぐに、BMWオラクルレーシングをはじめとする複数の挑戦予定チームが、あまりに防衛側有利に作られているその議定書にいっせいに反発した。

それにつづき、挑戦者代表として防衛側から指名されたスペインのヨットクラブが、防衛側が不正に仕立てた、会員さえいない実体のない傀儡(操り人形)ヨットクラブであることが判明した。

この辺りから第33回アメリカズカップは2年半にわたる裁判所での混乱に突入したのだったが、今年2010年2月、裁判所から正式に挑戦者代表として認められた米国サンフランシスコのゴールデンゲイト・ヨットクラブが送り出したBMWオラクルレーシングが、圧勝で第33回アメリカズカップを制したのは、ご存知のとおり。

つまり、前回の第33回アメリカズカップの混迷は、あまりに防衛者側に有利で、アンフェアな議定書から始まった。

だから、前回の挑戦者たちの急先鋒になって防衛側と裁判所で徹底的に闘い、2年以上をかけて海上での一騎打ちに持ち込み、そこで正々堂々とアメリカズカップを勝ち取ったゴールデンゲイト・ヨットクラブが、自らで定めた提出期限までに、どのようにフェアな第34回アメリカズカップ議定書を作り上げてくるのかに、挑戦を目論んでいる関係者たちの関心が集まっていた。

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アメリカズカップ 新旧2つの動き

2010年9月15日 水曜日

今年3月に行われたアメリカズカップではBMWオラクル・レーシンングがカップを獲得した。photo by Kazu Nishimura

 

次のアメリカズカップの新しい動きが発表されました。

9月13日バレンシアで行われた記者会見の内容によると、大きく変わるであろう点は下記の通り。

・ウイングセールを持つカタマラン艇AC72を採用
・新しいワールドシリーズを2011年からスタート
・Yuouth America’s Cupを2012年に開催
・短くて見どころの多いレースフォ-マット
・新しい船と適切な風の吹くレース海面によってレースの遅延を減らす
・効果的なコスト削減

この他、映像やインターネットコンテンツ、ウェブサイトに関することを含めていくつかの変更点があり、AC45と呼ばれるAC72のスケールダウンモデルを使ってワールドシリーズを競うこと、クルーの人数が11人になることなども発表されています。さらに、レース開催地などの最終の情報は年末までに発表される予定。

発表を行ったラッセル・クーツ(BMWオラクル・レーシンングCEO)は「新しい艇とレースフォーマットによりアメリカズカップはセーリングスポーツの頂点に返り咲くだろう」とコメントしています。

 

一方、この新しい動きをよそに、懐かしきアメリカズカップの面々と往年の名艇である国際12M級が米国ロードアイランド州ニューポートに結集します

「the 2010 America’s Cup 12 Metre Era Reunion presented by Rolex」と銘打たれたイベントが9月16日~19日、ニューヨークヨットクラブの主催で開催されるのです。

国際12M級は1958年から1987年の間、アメリカズカップに採用された艇種。もっとも長くアメリカズカップで使われていた艇種です。それらを駆ってアメリカズカップの挑戦艇選抜レースや防衛艇選抜レース、そしてアメリカズカップ本戦を戦った人や船が、期間中に行われる12M級北米選手権に参加します。昔のアメリカズカップ関係者の大いなる同窓会というところでしょうか。

テッド・ターナー、ゲイリー・ジョブソン、デニス・コナー、ペレ・ペターソン、テッド・フッド、シド・フィッシャーなどアメリカズカップの歴史を彩った多くの人々の名前が参加者の中に掲げらていますが、冒頭の新しいアメリカズカップの影はまったく見当たりません。

時を同じくして動きのあった新旧2つのアメリカズカップ。セーリングスポーツの頂点として語り継がれるこのレースはいつの時代にも多くの話題を提供してくれます。

なお、冒頭で紹介した次回のアメリカズカップの新しいレースフォーマットに関しては、近日中に本ブログで詳しい解説を掲載する予定です。

第34回アメリカズカップ公式サイト  http://www.americascup.com/  

ニューヨークヨットクラブ・イベントサイト  http://nyyc.org/AC12Mreunions/

2009年の12M級世界選手権を走るアメリカンイーグ。G.ジョブソンやT.ターナーが乗り込んだ。photo by www.Amory Ross.com

 

 

 

 

9月、米国ニューポートに12M級が集まる

2010年8月11日 水曜日

1977年アメリカズカップで防衛に成功した艇上のテッド・ターナー(左)とゲーリー・ジョブソン(courtesy of Gary Jobson)

 

アメリカズカップには独特の文化がある。

その昔、1958年から1987年にかけてアメリカズカップは国際12M級で行われていた。もっとも長くアメリカズカップに採用された艇種である。

その30年近くの間に戦ったのは防衛側、挑戦側合わせて80チーム。そこには艇長をはじめとする乗り手はもちろん、シンジケートメンバー、艇の設計者や建造者、チームのスタッフ、レース運営担当者やメディアの記者たちなど様々な立場の多くの人々がかかわり、それらすべてがアメリカズカップの構成要素だといってもいいだろう。

そんなアメリカズカップの12M級の関係者が集う12Metre Era Reunion が9月16日から19日にかけてに米国ロードアイランド州ニューポートで開催される。

期間中、12M級北米選手権が開催され、ここにはテッド・ターナーとゲイリー・ジョブソンが名艇<アメリカンイーグル>で登場の予定。そのほか、12M級のパレードがニューポートハーバー内で行われ、デニス・コナー、サー・ジェイムズ・ハーディー、ペレ・ペターソン、テッド・フッド、シド・フィッシャーなどアメリカズカップ伝説の人々が再会を果たすという。そのほかにも12M級映像のプレミア映写会や2度の講演会もありメニューは盛りだくさん。

さらにはアメリカズカップ殿堂というものがあって、そこにはすでに69人の人たちが殿堂入りを果たしているが、今年はそれに加えて新たに6人が加わるということでその式典が行われ、これがイベントの中ではもっともソーシアルなものになるとのこと。

この期間はニューポートボートショーも開催されており、このあたりは多くのセーリングファンで埋め尽くされることになりそうだ。

アメリカズカップ関係者の大いなる同窓会というところだが、国際アメリカズカップ級に移行してからのアメリカズカップの影はまったくなく、12M級の関係者のみで開催されるところがユニーク。前回のアメリカズカップにはかかわっていないニューヨークヨットクラブのイベントだけに、それもむべなるかなといったところか。